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小説を書いてみた〜『告白』

どうも、こうちんです。

さて、今日は「小説を書いてみた」シリーズの第2弾をお送りしたいと思います。

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またまた何故か太宰治。。

 

趣味で書いてみた自作小説

前回は以下の『罠』をご紹介しました。

www.kochin-kun.com

 今回のお話はこれとは全くジャンルの異なる、「人の心」を描こうとトライした内容です。

本当はこういった「人間の心の奥」を描き出すことのできる小説家になるのが数ある夢のひとつだったんですよ、、他にも色々夢はありましたけどね(^^;)。

ちなみにこのお話の最後に語られる「宮本」のセリフが私はとても好きです。

今からでも彼のような生き方ができたらな、と思います。。

今回も数分程度で読み切れる分量ですので、是非お付き合いください。

 

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『告白』

 中学時代の同窓会の案内が届いたのは、今から6年ほど前の私が22歳の秋のことであった。

「同窓会か。懐かしいなあ。もう7年ぶりになるか。」

 私は迷わず、出席の欄に丸をつけて返送しようとした。しかし、差出人の名前に宮本翔司と書かれているのに気づき、しばらく躊躇してしまった。

 「宮本?あの宮本か。」

 私はこの宮本という男にだけはどうしても会いたくはなかった。だが、それでも他の懐かしい仲間達には是非とも会いたいという気持ちが先行し、結局3日ほど迷った末に、出席するという返事を出した。

 それから3週間ほどたった土曜日の夜に、私は予定通りに同窓会に出席した。

 同窓会は思いの他盛り上がった。当然のことだが、皆それぞれが大人になっていた。大学に進学した者、働いている者、中にはもうすでに結婚し子供がいるという者もいた。幹事である宮本も当然その場にいた。しかし、私は極力彼とは目を合わせないようにしていた。

 そして、そろそろお開きの時間が近づき、気の合う者同士がかたまって次の2次会の話を始めた時のことである。宮本はこともあろうか私に向かって話しかけてきたのである。

 「やあ、久し振りだね。」

 「あ、ああ。そうだな。」

 私は完全にうろたえていた。

 「もし良かったら、この後二人で飲みにでも行かないか。話したいことがあるんだ。」

 「・・・何?」

 私には彼の意図するところが、さっぱりわからなかったが、断る理由も思いつかなかったので、とにかくその申し出に応じることにした。

 

 私と宮本はすぐ近くの居酒屋へ入り、カウンター席に並んで座った。心なしか、宮本の方も私の前で少し緊張しているように見えた。

 「どう?元気にやってる?」

 「ああ。何とかな。お前の方はどうだ?」

 「まあまあだね。」

 彼は東大の法学部の4年生だった。やはり優秀な男である。中学時代からそうであった。

 その後、当り障りのない会話がしばらく続き、一通り話し終えると、少し長い沈黙があった。そして、私と彼はどちらからともなく中学時代のことを話し始めた。

 その頃、彼は正に絵に描いたような完璧な優等生であった。成績は常に学年で3番以内には入っていたし、生徒会の会長も務めていた。それにスポーツも万能で、陸上部のキャプテンも勤めていた彼は、短距離の選手として全国大会にまで出場していた。当然クラスの生徒達からは特別な存在として扱われていた。文化祭の出し物を決める時や、席替えの時の決め方など細かいことまで、大抵はクラス中の者が彼の意見に従った。一部のいわゆる不良グループと呼ばれる連中も彼にだけは一目置いていた。

 「まったくお前はたいした男だったよ。」

 その頃には、私はすっかり落ち着きを取り戻していた。

 「本当にそう思うか?実はあの頃僕は死ぬほど苦しんでいたんだ。君はそれを知っていたんじゃないのか?」

 確かに当時の宮本は誰の目から見ても優等生だった。彼の周りには常に人が集まり、いつでも彼は話題の中心だった。しかし、彼はいつも深い孤独の中で苦しんでいた。彼には好きな女の子のことや、人には言えない悩みなどを本音で話せるような友達が一人もいなかった。誰も彼の心の中へまでは踏み込もうとはしなかったし、彼自身もそうさせないような雰囲気を漂わせていた。彼にとってはそのような友達を持ち、自分の弱みや本音をさらけ出すということは、優等生としての完成度を損なう行為であり、絶対に許されることではなかった。

 「それでお前自身としては満足していたのか?」

 そう私が尋ねてみると、宮本はしばらく押し黙ったまま何かを考えていた。

 「それは・・・僕自身にも良くわからない。ただ、少なくともあの頃はああいう行動をとり続けることが絶対に正しいことだと信じていたんだ。」

 「・・・そうか。」

 それ以上私には何と言って良いのかわからなかった。しばらく沈黙があった後、再び宮本は話し始めた。

 「ただ、卒業間近の頃のあの事件、覚えてるかい?」

 「ああ、忘れるもんか。」

 授業の合間の休み時間のことであった。不良グループのリーダー格の男が廊下に唾を吐いたのを、宮本が注意した。それをきっかけに激しい口論となった。だが、いかに不良グループのリーダーと言えども、喧嘩で腕力のある宮本に勝つ見込みはなかった。ましてや口論で勝てるはずもない。結局すごすごと引き下がるしかなかった。しかし、その時に負け惜しみで言い放ったその男の一言が、宮本にとっては大変な打撃であった。

 「まったく、いつまでも優等生の芝居なんかこいてんじゃねえよ。」

 そのたった一言が、彼の心を大きく揺さぶった。その瞬間、宮本は逆上しその男の襟をつかみ、横っ面を思い切り殴りとばした。

 「僕が・・・芝居をやってるだと!」

 その後も宮本は狂ったようにその男の顔を殴り続けた。周囲の者たちは、驚きとその時のあまりの宮本の恐ろしさに震え上がり、誰も彼を止めようとはしなかった。ようやく屈強な体育教師が駆けつけてきて、宮本を取り押さえた時には男の顔は血まみれになっていた。

 この事件は校長を含め職員室でも大変な問題になったようだが、幸い殴られた男は鼻血が出た程度の軽いケガで済んだし、何より生徒会長が傷害事件を起こしたとなっては、学校として対外的にまずいことになるので、表沙汰にはならないよう学校側が配慮した。その場に居合わせた者全員にも、このことはけっして口外せぬよう指示があった。

 「今でもまだあの時の感触が残ってるよ。」

 宮本は右手の拳を見つめながら、そう言った。

 「いったいどうしてあんなことをしたんだ?俺にはとてもお前が自分から人を殴るような人間には見えなかったぞ。」

 私にはあの時の宮本のとった行動の意味するところがまったく理解できなかった。彼はしばらく手にとったグラスを見つめながら、じっと何かを考えていた。そして、何か重苦しい物を吐き出すように話し始めた。

 「僕がそれまで必死になって隠し通してきた物を、いとも簡単に見抜かれてしまった。そんな気がしたんだよ。そして、それは僕にとっては死ぬほど耐えがたい屈辱だったのさ。」

 宮本は、普通の中学生なら誰もが抱くであろう自然な欲求や主張をすべて押し殺し、文字通り優等生というものを必死になって演じ続けていた。そして、それを完全に演じきることこそが彼自身の存在の証であり、それが彼の中学生なりの完成された哲学であった。しかし、その哲学が不良少年の放ったたった一言で、一瞬にしてガラガラと音をたてて脆くも崩れ去ってしまったのである。彼の演技は完全ではなかったのである。そして、その一言を放った不良少年こそが、かつての私なのである。

 「なあ、教えてくれないか。どうして君はあんな一言を言ったんだ?僕が苦しんでいるのを知っていたのか?」

 私はしばらく黙って考え込んだ。そして、当時彼に対して思っていたことを正直に話した。

 「俺はお前のことを憐れに思っていたんだよ。とにかくお前が苦しんでいるのが俺にはわかったんだよ。だから殴られた後も仕返しをしてやろうとも思わなかったし、誰に殴られたのか聞かれても、高校生の先輩に殴られたとか何とか適当なことを言って、お前の名前はけっして言わなかったんだ。まあ、正直なところ生徒会長に殴られたなんて俺としてもカッコがつかないっていうのもあったけどな。」

 そこまで話すと、私は煙草に火を点けて一呼吸おいた。宮本はじっと何かを考えていた。

 「しかし・・・いったいどうして君は僕が苦しんでいるって感じたんだ?何故それがわかったんだ?」

 「目だよ。」

 「目?」

 私は煙草の火を消して、宮本の目を見て話した。

 「俺はあの頃、他校の連中としょっちゅう喧嘩ばっかりやってたろ。喧嘩っていうのは相手と目と目を合わせたその瞬間に、ほとんど勝負が決まるもんなんだ。あ、こいつはビビってやがるな、とか、やばい、こいつには勝てそうにねえな、とかな。それで俺はそういうことに異常に敏感になっていたんだろうな。」

 「それで僕はあの時、いったいどんな目をしていたんだい?」

 宮本もじっと私の目を見返しながらそう言った。

 「いつも何かに怯えている。そんな目をしていたよ。それにお前の行動の一つ一つが、どうも俺には不自然に見えたんだよ。他の連中はどう思っていたのかは知らないが、少なくとも俺にはそう見えたんだよ。」

  私がそこまで話すと、しばらく長い沈黙が訪れた。私は煙草に火を点けて、彼が話し始めるのを待っていた。

 「僕はずっと君に殴ったことを謝りたかったんだよ。そして、どうしても一言お礼が言いたかったんだ。今回の同窓会を企画したのも、実のところそれが目的だったんだよ。」

 「殴ったことは気にすんなよ。俺にとっては、人に殴られるなんてことはしょっちゅうだったからな。しかし、何で俺に礼なんかを言いたいんだ?どう考えてもお前に礼なんか言われる筋合いはないと思うがな。」

 私には彼の言葉の意味が呑みこめなかった。

 「僕はあの事件の後変わったんだよ。というより変わることができたんだよ。」

 「変わった・・・って、いったいどう変わったっていうんだ?」

 宮本はグラスのカクテルを一気に飲み乾した。

 「君の言うところの芝居というやつを一切やめたんだよ。」

 彼は中学を卒業後、全国的にも有名な都内の私立の進学校へと進んだ。その中にあっても彼はトップクラスの成績をとり続けた。しかし、もはや中学時代のような優等生ぶりを発揮することはなかった。生徒会にも入らなかったし、部活動もやらなかった。もともと彼はそんなものには、まったく興味はなかった。彼にとっては、生徒会も部活動も周囲に自分の優等生ぶりを印象づけるための手段でしかなかったのである。

 彼は学校が終わると、毎日ボクシングのジムへ通った。そして、学校では禁止されていたバイクの免許もとった。ボクシングにしろバイクにしろいずれも優等生のイメージとはまったくかけ離れているが、その頃の彼は周囲の目は一切気にせずに、気の向くままに自分のやりたいことをやっていた。それに、ボクシングやバイクを通じて自分をさらけ出すことのできる、多くの友人に恵まれるようになった。

 「あの頃は本当に楽しかった。やっと自分が開放されたという気分だったね。気持ちもすごく楽になった。」

 「そうか。それは良かったな。」

 私はその話を聞いて嬉しくなった。もっといろいろ彼に何か言ってやりたかったが、適当な言葉が見つからなかった。

 大学へ進学した後も、宮本は自由気ままに生きていた。その頃、ある留学生との出会いをきっかけに、異文化に興味を持つようになった彼は、アルバイトで貯めた金で海外を飛び回っていた。

 「僕は大学を卒業したらアメリカへ行こうと思っているんだ。」

 「何だって?」

 「向こうの知り合いが経営している農園でしばらく働くつもりだ。」

 「?。そりゃあまたどうして?」

 彼の大学だったら、卒業後は大蔵省だの通産省だの超一流のなんたら銀行やら商社やらへ就職するのが普通だった。しかし、彼はそのような道を選ぶことはしなかった。

 「大した理由なんてないさ。行きたいから行く、やりたいからやる。ただそれだけのことさ。」

 「キザなこと言いやがって。」

 その時の宮本の目は、自信に満ち溢れギラギラと輝いていた。かつて私が感じていた怯えのようなものは、微塵もなかった。

 私の宮本に対する感情も、そのときにはもうすでに明らかに別のものに変わっていた。

 「なあ、もう一軒行かねえか?いい店知ってんだ。今夜は徹底的に飲もうぜ。なあ!」

 「ああ。そうだね。僕もそうしたかったんだ。」

 彼は嬉しそうに応えた。

 私と宮本は肩を並べて夜の街へと消えて行った。

 

      

 

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