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小説を書いてみた〜『残された将軍』

どうも、こうちんです。

しばらく更新が空いてしまいましたが、今日は「小説を書いてみた」シリーズの第3弾をお送りしたいと思います。

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そして、やはり太宰治。。

 

趣味で書いてみた自作小説

前回は以下の、『告白』をご紹介致しました。

www.kochin-kun.com

 今回はこれとはまた全然うって変わったかなり「おバカ」な内容ですが、私はこれはこれで結構好きです(^^)。

ちなみに今作もかなり前に書いたものなのですが、ゴキブリホイホイとかバルサンなんて、特に若い人達は知らないかもしれませんね(^^;)。

今回も数分で読み切れる分量ですので、是非お付き合いください。

 

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『残された将軍』

 唐突だが、私はごきぶりである。

 私はこの「ごきぶり」という呼び名が好きではない。「喋喋」や「蜻蛉」などといった、きれいで趣のある名前に憧れているのだが、人間がそう命名してしまったのだから仕方がない。

 

 住いは、とある2階立てのアパートの1階である。この部屋に住む人間は独り暮らしの大学生で、名前はマサルという。マサルは4年前、大学への進学とともにこの部屋に引っ越してきた。

 同じ頃、私も総勢54名の部下を率いてこの部屋にやってきた。というのは、独り暮らしの学生というのは大抵ずぼらで、部屋の掃除やゴミだしなどめったにせず、我々にとっては実に好都合だからである。群れの将軍である私は、迷わずこの部屋への移住を決断した。

 ところが、このマサルという男は、予想に反して実に几帳面な男だった。ゴミは全くためずに毎日外へ出してしまうわ、こまめに窓を開けて掃除はするわ、挙句の果てには、ご丁寧に我々の活動拠点である、冷蔵庫の裏まで掃除をする徹底振りであった。

 ここまでやられるとさすがに辛い。特に冷蔵庫裏をやられる度に、私は1、2名の部下を失っていった。我々は、活動拠点を食糧から縁遠い下駄箱裏へ移すことを余儀なくされた。

 

 しかし、マサルの攻撃は終わらなかった。罠を仕掛けてきたのだ。箱の中の真ん中に、非常にいい臭いのする食糧らしきものが置いてあるのだが、箱の中に入って近づこうとすると、足が地面にへばり付いて動かなくなるのだ。よほど強靭な足腰でなければ、そこから逃れることは不可能である。この罠のために、さらに多くの優秀な部下を失った。

 私は、どうにかこの罠から逃れられる方法を日々模索していたが、どうにも有効な手段が見出せなかった。人間には理解できないだろうが、我々にとっては食糧と罠を区別することは非常に困難なのである。

 やはり、罠にはまっても自力で脱出できるだけの体力を全員につけさせる以外に、有効な手段はなかった。

 我々は下駄箱裏の狭いスペースを使って、日々足腰の筋力トレーニングに励んだ。マサルが寝静まってからは、這うことが困難な天井を全力で駆け抜けたり、足場の悪い鏡の表面を攀じ登ったりと、ハードなメニューも積極的に取り入れた。

 半年ほどすると、皆見違えるほど逞しくなっていた。ほとんどの者が、罠にはまっても自力で脱出できるだけの体力を実に付け、ようやく捕獲者がでなくなった。このときすでに私の部下はわずか12名にまで減っていたが、全員がどの群れでも将軍を務められるだけの力を備えていた。私はこの精鋭達を柱に本格的な群れの再建計画を練っていた。

 

 しかし、そんな矢先のことであった。テレビのCMかなんかであろうか? 非常に気がかりな歌が私の耳にとびこんできた。

 「すみずみまできくうー、ごきーぶりーに、ばるうーさんー」

 ごきぶり、という言葉に私は敏感に反応した。テレビを見ていたマサルもこのCMに反応し、何かを思案しているようであった。嫌な予感がした。

 (ばるさん? ばるさんとはいったい何のことであろうか? 新しいタイプの罠のことか? だとしたらどう対処したらいいのだ。)

 私は、どうにもそのことが頭から離れず、夜も眠れなくなった。

 

 そして、それから数日後の朝、マサルは朝食を終えると突然立ち上がり、窓の淵をガムテープで塞ぎ始めた。今までに見たことのない、マサルの特異な行動に我々は動揺した。

 (何だ? いったい何をしようというのだ?)

 一通りガムテープを貼る作業を終えると、マサルは箱の中から何やらスプレーのようなものを取り出した。そして、部屋の真ん中にセットすると、慌てて部屋から出て行ってしまった。

 (!? 何だ? いったい何が起こるというのだ? 何故マサルはあんなに慌てて出て行ったのだ?)

 間も無く、スプレーから物凄い勢いで白い煙が噴出し、瞬く間に部屋中に充満した。すると、どういうわけか足が痺れて意識が朦朧としてきた。気が付くと、もうすでに半数以上の部下達が完全に意識を失い、動けなくなっていた。

 (お、おい! しっかりしろ! とにかくこの部屋から脱出するんだ! 急げ!)

 次々と倒れていく部下達を必死で鼓舞しながら、私は出口を探した。しかし、隙間という隙間をガムテープで塞がれ、突破口が見付けられない。息をするのも苦しくなり、意識はますます遠のいていく。

 (く、くっそう! こういうことか! おのれえ! マサルうーっ!!)

 私は、マサルのとった一連の行動の意味をようやく理解した。しかし、もう遅かった。すでに残された部下達は全員意識を失い、どうにか動けるのは私だけであった。私は最後の力を振り絞り、ようやく玄関のドアの郵便受けの隙間から脱出し、一命をとりとめた。

 

 

 思えば、この4年間はマサルとの戦いであった。そして全員の部下を失った今、私は敗北を認めねばなるまい。

 しかし、このまま終わるわけにはいかない。群れの将軍としての誇りにかけ、私はマサルに一矢報いなければならないのだ。

 

 マサルは大学を卒業し、今日この部屋を出てゆく。

 私は今、天井からマサルを見下ろしている。様々な思いが胸中を去来する。敗北の屈辱、失った部下達への思い・・・。私はついに意を決し、力いっぱい羽を広げた。

 (将軍の誇りいっっっー!! 部下の仇いっっっー!! うおおおおおおおっっっー!!!)

 私は、マサルの顔をめがけ猛然と突っ込んだ。死を覚悟した捨て身の特攻である。

 しかし、いち早く殺気に気付いたマサルの手によって、私はあっさりと床に叩き落とされた。

 (もはやこれまで・・・。さらばだ。)

 私は覚悟を決めた。ところが、

 「なんだ。最近まったく見かけなくなったと思ったら、まだ1匹残ってたのか。まあいいや、どうせもうこの部屋出るんだし、わざわざやっつけることもないか。さて、そろそろ行くか。」

 そう言うと、マサルは荷物を持って部屋を出て行った。何ともあっけない宿敵マサルとの別れであった。

 

 誰も居ない、がらんとした部屋に私はぽつんと取り残された。不意にとてつもなく深い孤独感に襲われた。

 私の人生(否、私の場合人生とは言わない)はいったい何だったのか。若干1歳2ヶ月にして将軍に抜擢された私は、群れの繁栄のため全力を尽くしてきた。とりわけマサルとの死闘は、私の生き甲斐であった。

 しかし、今は群れを失い、宿敵マサルも去っていった。私はこれから何を生き甲斐にすれば良いのだろうか。

 (うううっ・・・くっ・・・くううっ・・・。)

 止め処なく涙が溢れた。

 

 「ガチャリ!」

 (ん?)

 不意に、誰かが部屋に入って来た。

「いやあねえ。汚い部屋だわ。すぐにお掃除しなくっちゃ。」

 どうやら新しい住人のようである。見ると、きれいなスーツに身を包んだ、いかにも清潔そうなOL風の若い女性であった。明らかに強敵である。こんな住人のいる部屋には、間違いなくどの群れも寄り付かない。

 しかし、不思議なことに私の胸の中では新たな闘争本能が燃え上がっていた。

 (なあに、また全てゼロからやり直せばいいさ。これまで培ってきたノウハウだって活かせるじゃないか!)

 私は、希望に満ちた目で新たな宿敵を見つめていた。清楚で洒落た香水の香りが、私の闘争心をいっそう掻き立てるのだった。

 

        

 

今日も訪問いただき、ありがとうございました。